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じつは直木賞のほうが重要!? 「おまけ」のようなかたちで設置された芥川賞【芥川賞・直木賞の炎上史】 

炎上とスキャンダルの歴史

 

■太宰治が芥川賞を欲しがったのは「賞金めあて」だった?

 

太宰治(「太宰治の生涯」毎日新聞社 1968)

 開始当初は、菊池によると、一行も記事にしてくれない新聞もあったそうです。しかし、その第一回・芥川賞受賞に血道を上げたことで知られるのが太宰治でした。

 

 太宰は公私ともに世話になっていた佐藤春夫からの推薦もあり、候補作に『逆行』が選ばれた時点で受賞を確信して有頂天になっていました。しかし選考会では、川端康成などから猛反対を受けて受賞はできませんでした。発狂した太宰が、川端に向けて「刺す。」などと書いた文章を公開するなどの奇行に走ったことで有名です。

 

 太宰は学生時代から芥川の大ファンで、彼の名前を冠した賞をもらうことに異様な情熱を注いだと説明されがちですが、実際は金銭の問題も大きく、当時の太宰は「パビナール」こと麻薬性鎮静剤の中毒で、その治療に膨大な金がかかって困窮していたのです。

 

 そして、当時の芥川賞(そして直木賞)の賞金は500円。「1000円あれば家が建つ」といわれた当時、現代でいえば500万円程度に値しそうです。太宰が喉から手が出るほど芥川賞を欲したのは、賞金目当ての側面も大きかったでしょう。

 

 受賞を逃した太宰は、佐藤春夫に恨みつらみの手紙を書き送って「物資の苦しみがかさなりかさなり死ぬことばかり考えて居ります」などとグチりましたが、その言葉に嘘はなさそうです。

 

 

画像出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」(https://www.ndl.go.jp/portrait/)

 

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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